片思いの人がネットワークビジネスでバグった話

30代になって就職して間もない頃の,今から数年ほど前の話です.
飲み会で知り合った20代中盤の女性に一目惚れしました.
容姿端麗で清潔感があり,目と肌が魅力的な人でした.
性格は明るく愛嬌があって,誰からも好かれるタイプです.


飲み会の向かいの席に座った彼女と夢中になって話をしました.
児童館の職員として働いているそうで,
「子供たちの笑顔を毎日見られる今の仕事は私の天職なの」
と目を輝かせて話す彼女がとても魅力的でした.

毎日子供たちと接しているからか
世の中の汚れたところを全く目に映さない感じで
愚痴の一つも漏らさない無垢さがありました.
いい意味で騙されやすい感じです.



飲み会で連絡先を交換し,週末は二人で遊びに行くようになりました.
周りからも「いい感じらしいね!」「早く付き合っちゃえよ!」
と言われるくらいだったので,間違いなく順調だったと思います.

そんなこんなで付き合うタイミングを見計らっていた時に
ある事件が起きました.



私が2週間,福岡の出張が入ってしまったタイミングで,
彼女はある飲み会に参加し,
そこで知り合った私の知人男性と凄くいい感じになったことを
彼女の友人からのLineで知りました.

その知人男性と私は同じ飲み屋さんの常連で多少のつながりがある程度です.
厄介なのが,彼は同世代なのに会社を経営していると語っていたことです.
方や,私は先日までパチンカスのフリーター時々ニートだった30代.
どう考えたって絶対に勝てる相手ではありません.



福岡から出張で帰った週に彼女に会えないかお誘いをしたところ,
「しばらく忙しいの」とのこと.
頻繁だったLineも素っ気なくなりました.


それから数週間が過ぎたある平日の深夜に彼女からLineが来ました.
「大切な人とお付き合いすることになりました」
「これまでたくさん遊んでくれてありがとう.お互い幸せになろうね」



こうして私は失恋しました.
冷静に考えれば仕方のないことです.
10代後半から最近までパチンコとスロットしかしてこなかった自分が
社会的地位が高く裕福な30代の若社長に敵いっこない.



ふられた翌日,中学からの親友に焼き鳥を奢ってもらいました.
これまでの自分の愚弄さを恨み,
愚痴をこぼしながらいつの間にか私は泣いていました.




それから数か月後,彼女の友人からLineがきました.
話があるから飲みに行こうとのこと.
そこで驚愕の事実を聞かされました.


「あの子の彼氏のことなんだけど,
社長の肩書,どうやらネットワークビジネスらしいの.
社長というか,個人で仕入れて売ってる代理店的なやつ.」




血液が沸騰するような怒りを感じたのを覚えています.
過去に母のネットワークビジネスで人生を狂ったことがあるので,
この手のビジネスに対しては猛烈な嫌悪感を持っています.

「ホントに,またMLMかよ.」..

そんな小言を漏らしたところに彼女の友達が続けます.

「あの子っていい意味で無垢で世間知らずでしょ.
だから出会ったことのないタイプの男でとても惹かれたんだって.
自分で道を切り開く姿が素敵だから,一生ついていくんだって」

確かに,10年以上パチンコ三昧な人生だった人よりは魅力的だろうけど,
彼女の無垢さがそこでシンクロしてほしくなかったのは正直なところ.

って,待て待て!
「…一生ついていくってまさか!」

「そう,付き合う前くらいにあの子も始めちゃったの.
そして問題なのが,どうやら職場で勧誘をしまくっているみたいで,
クビの一歩手前の状態らしいの.」

正直,信じられませんでした.
彼女にとって児童館の仕事は天職と言ってたのが印象的だったのに.

「なんかね,年金はあてにならない働くことを疑え
人間は本来はもっと自由であるべき職場に搾取されている的な,
ちょっと前まであの子が絶対に言わないことを口に出してるみたいで
職場の雰囲気がかなりやばくなっているらしいの」

ショックが大きくて,彼女の友達の話はあまり頭に入ってきませんでした.
とりあえず理解できたことは,彼女は友達から距離を置かれたり
避けられているとのこと.
また数人の気の弱い子を勧誘して活動を継続しているとのこと.


久しぶりに好きになった人が
自分の母のように他人の人生を狂わしている
私がもっと早く告白していれば,こんなことになっていなかったかもと
後悔する気持ちがこみ上げてきて,その日は早々に引き上げました.


それからさらに数か月経った頃,
風の便りで彼女が仕事を辞めたことを聞きました.
おそらく居づらい雰囲気になったのでしょう.

その日の(自称社長の)彼氏のインスタでは
「彼女はフリーランスとして独立しました!俺も頑張ろっと!」
とアップされていました.

もう恋心はなかったのですが,
「お前がクビにさせたんだろうが…」
と悲しい気持ちになりました.

彼女は現在,周囲に「大物社長の秘書」をしていると言いふらしているそうです.
おそらくその大物社長は彼氏のことなんでしょうけど.


彼女にとっては,大好きな彼氏とずっと一緒に居られるようになり
それはそれでよかったのかもしれません.

一方で,友達に避けられたり,後ろ指をさされたりして,
同僚に迷惑をかけたうえで仕事も辞めることになって,
「大物社長秘書」という現実から乖離した肩書になった彼女を
私の感覚では,唯々気の毒と感じてしまうのです.

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